大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋家庭裁判所 昭和51年(少ハ)3号 決定 1976年12月14日

少年 Z・T子(昭三四・九・五生)

主文

少年を昭和五一年一二月一四日から昭和五二年一二月一三日まで中等少年院に戻して収容する。

理由

(本件申請理由の要旨)

少年は昭和五一年九月六日明徳少女苑を仮退院し、以来名古屋保護観察所の保護観察下にあつたものであるが、特別遵守事項である、1、家出放浪をしないこと。2、異性と不純な交友をしないこと。3、早く仕事についてまじめに働らくこと。4、保護司や両親に何事も相談し、我儘勝手な行動をしないことのいずれにも違反して仮退院後間もない同年九月一七日から仕事を怠休し、名古屋市内を徘徊し、たまたま以前情交関係のあつた氏名不詳二三歳位の男と出逢うやともに三日間に旦りホテルを転々としながら肉体関係を持つていたもので自宅付近に帰つたところを保護され、保護観察官、保護司の強い指導を受けたが、その後も仕事を怠けて解雇され、再就職したが殆んど勤務せず市内を徘徊し同年一一月一日には氏名不詳の男(二四歳位)に誘われるままに家出し、同人のアパートで同月六日まで生活し、自宅付近に帰つたところを母親が保護し、保護観察官、保護司の指導を受けたが同月一九日又家出し、新たに知り逢つた氏名不詳の男二名とそれぞれ肉体関係を持ち、同月二三日まで男のアパートに泊つたり、ドライブをしたりして過していたものである。

以上のとおり少年は保護観察官、保護司、保護者の強い指導のもとにあつても遵守事項違反を繰返すものでこのまま推移すれば再非行の危険性は極めて高く保護観察による改善更生は期待し難いのでこの際少年に強い反省と自覚を促すため再度施設に収容し、矯正教育を施すことが必要である。

(当裁判所の判断)

保護観察官の少年及びその母に対する各質問調書、申請書添付の保護観察経過書、当審判廷における少年及び父母の各供述、当裁判所調査官の調査の結果によると本件申請理由の要旨に記載のとおりの事実が認められる。

少年は、当裁判所において昭和五一年五月七日に四ヶ月間に八回の家出、放浪、不特定多数の男性との性関係(売春類似行為も含まれる。)に基くぐ犯により中等少年院送致(但し期間は短期処遇勧告)となつたものであるが、少年の非行は知能指数六一という軽度の精神簿弱者であるという資質に結びついているところもあつて容易に矯正し難く、指導を受けた段階では了解しても結局は衝動的、短絡的に行動してしまうところがある。教育の効果が容易に顕われない少年と思われるがその非行の内容は他害的なものではなく専ら自己の徳性や身体を害する性質のものでありこうした非行の特質から考えると少年院において二〇歳に達するまでの長期間に亘つて社会から隔離しなければならないというものではないと考える。

少年は現在一七歳の児童であり、その判断力も低い状態のまま社会におくことは、転落の一途を辿らせるのみであることに鑑み、現段階では収容のうえ或程度年齢的な成熟をまち、その間に少年の興味を性的関心事以外に拡げ、具体的な事象に応じた処理方法を学ばせるなどにより資質の向上を計る必要のあることを認めこれを期待して、一年間に限り、中等少年院に戻して収容することとする。

よつて本件申請を理由あるものと認め、犯罪者予防更生法第四三条第一項、少年審判規則第五五条、少年院法第二条第三項により主文のとおり決定する。

(裁判官 土井博子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例